Corpusがいちばん目立つ場所に出しているのは平均年収です。 しかしこれは給与の総額 ÷ 従業員数でしかありません。 誰ひとり昇給しなくても、給料の安い若手が抜ければ平均は上がります。 逆に、全員を昇給させても新卒を大量に採れば平均は下がります。 つまり「平均年収が上がった」は、そのままでは良い知らせとは限りません。 看板にしている数字なので、自分のデータで確かめます。
対象3,608社のうち82%で平均年収が上がり、中央値は 2年で+5.7%でした。平均年齢の変化との相関はρ=+0.129と弱く、 年齢・勤続年数・従業員数の3つを合わせても、年収の変化の5%しか説明できません。 残りは、この3つでは説明がつかない部分です(測り切れていない構成の変化や、 決算期のずれのような雑音も含みます)。少なくとも 「若手が抜けたから平均が上がっただけ」では説明がつかないことは言えます。
平均年齢の変化で5等分し、各組の平均年収の変化を見ます。 「若手が抜けて平均が上がっただけ」なら、右に行くほど年収の伸びが大きくなるはずです。
| 平均年齢の変化 | 年齢の変化 (中央値) | 平均年収の変化 (中央値) |
従業員数の変化 (中央値) | 上がった 会社の割合 |
社数 |
|---|---|---|---|---|---|
| Q1 | -1.1歳 | +4.0% | +4.6% | 71% | 721 |
| Q2 | -0.2歳 | +5.6% | +3.3% | 85% | 722 |
| Q3 | +0.3歳 | +6.0% | +2.8% | 87% | 721 |
| Q4 | +0.8歳 | +6.3% | +1.9% | 87% | 722 |
| Q5 | +1.8歳 | +6.5% | +0.0% | 83% | 722 |
たしかに右上がりですが、幅がとても狭い。 平均年齢が1.1歳下がったQ1でも年収は+4.0%、 1.8歳上がったQ5で+6.5%。 2.9歳ぶんの差に対して、年収の差は2.4ポイントしかありません。 回帰でも平均年齢が1歳上がると平均年収は+1.2%で、 この2年に起きた+5.7%の大部分を説明できる大きさではありません。
採用を増やせば給料の安い人が増えるので、平均年収は下がるはずです。 従業員数の変化で5等分しました(3,004社)。
| 従業員数の変化 | 人数の変化 (中央値) | 平均年収の変化 (中央値) |
年齢の変化 (中央値) | 上がった 会社の割合 |
社数 |
|---|---|---|---|---|---|
| Q1 | -9.3% | +5.2% | +0.6歳 | 79% | 600 |
| Q2 | -1.4% | +6.2% | +0.3歳 | 86% | 601 |
| Q3 | +2.7% | +5.7% | +0.1歳 | 87% | 601 |
| Q4 | +7.8% | +6.2% | +0.1歳 | 83% | 601 |
| Q5 | +23.1% | +5.6% | +0.1歳 | 79% | 601 |
ほぼ平らです。2年で人を23%増やしたQ5でも 平均年収は+5.6%上がり、9%減らしたQ1 (+5.2%)と大きくは変わりません。 相関はρ=+0.049。採ったから平均が下がる、という関係は見えませんでした。 賃上げの幅が、採用による押し下げを上回っていたということです。
| 業種 | 社数 | 平均年収の変化 (中央値) | 年齢の変化 (中央値) |
|---|---|---|---|
| 電気・ガス業 | 25 | +10.6% | -0.1歳 |
| 建設業 | 143 | +9.0% | +0.0歳 |
| 非鉄金属 | 30 | +8.3% | +0.0歳 |
| 輸送用機器 | 80 | +7.9% | +0.4歳 |
| 不動産業 | 125 | +7.3% | +0.4歳 |
| 小売業 | 301 | +4.8% | +0.4歳 |
| パルプ・紙 | 24 | +4.6% | +0.3歳 |
| 卸売業 | 298 | +4.5% | +0.1歳 |
| 医薬品 | 75 | +4.4% | +0.4歳 |
| 繊維製品 | 44 | +4.4% | -0.1歳 |
伸びた上位5業種と下位5業種(20社以上の業種のみ)。 電気・ガス業の+10.6%と繊維製品の+4.4%では 2倍以上の開きがあります。年齢の変化はどの業種でもほぼ0で、 業種差は構成ではなく賃金そのものの差です。業種ごとの水準は ランキングから見られます。
平均年齢が下がったのに平均年収が5%以上上がった会社が420社ありました。 若返りは平均年収を押し下げる方向に働くので、この組はそれを打ち消すだけの賃上げをしたことになります。 平均年収は提出会社(多くは親会社単体)の値で、数十人の会社では1人の入退社で大きく動くため、 ここでは単体の従業員が100人以上の会社に絞って上位を挙げます。
| 企業 | 業種 | 平均年収の変化 | 年齢の変化 | 現在の平均年収 | 従業員(単体) |
|---|---|---|---|---|---|
| 川崎地質株式会社 | サービス業 | +37.9% | -6.0歳 | 824万 | 357 |
| 株式会社船場 | サービス業 | +35.6% | -1.6歳 | 761万 | 420 |
| 株式会社日本マイクロニクス | 電気機器 | +33.9% | -1.0歳 | 787万 | 1,264 |
| GMOフィナンシャルゲート株式会社 | 情報・通信業 | +30.4% | -3.0歳 | 1,335万 | 106 |
| 豊トラスティ証券株式会社 | 証券、商品先物取引業 | +30.3% | -1.0歳 | 887万 | 356 |
| ダイダン株式会社 | 建設業 | +30.0% | -0.4歳 | 1,177万 | 2,185 |
| 株式会社タカラトミー | その他製品 | +29.5% | -2.2歳 | 1,038万 | 630 |
| 株式会社やまや | 小売業 | +28.8% | -1.8歳 | 551万 | 109 |
| 西松建設株式会社 | 建設業 | +27.3% | -0.9歳 | 1,062万 | 2,706 |
| 株式会社エーアンドエーマテリアル | ガラス・土石製品 | +26.1% | -4.7歳 | 700万 | 217 |
| 松井証券株式会社 | 証券、商品先物取引業 | +26.0% | -0.6歳 | 1,155万 | 227 |
| 明和産業株式会社 | 卸売業 | +26.0% | -0.5歳 | 936万 | 198 |
上げた理由まではこのデータで分かりません(賃金制度の改定、業績連動賞与、 高給の職種の比率が変わった、など複数ありえます)。各社のページで年収の推移と従業員数の推移を 並べて見られます。会社ごとの伸びの一覧は 平均年収が上がった会社・下がった会社にあります。
出典: 有価証券報告書(EDINET・金融庁)。EDINET 有価証券報告書(120)。
対象は平均年収が3時点そろい、2年の変化が±60%以内の3,608社
(2023-04-30〜2026-05-20の決算)。
集計手順は pipeline/analyze_raise.py、全数値は
pipeline/out/research_raise.json にあります。
ほかの検証: 社員の増減と株価・
女性管理職と男女の賃金差・
訂正報告書と経営の兆候。
算出方法の全体は算出方法へ。