平均年収が上がった会社では、何が起きていたのか

上場3,608社の2年の変化を、年齢・勤続・人数と突き合わせた

Corpusがいちばん目立つ場所に出しているのは平均年収です。 しかしこれは給与の総額 ÷ 従業員数でしかありません。 誰ひとり昇給しなくても、給料の安い若手が抜ければ平均は上がります。 逆に、全員を昇給させても新卒を大量に採れば平均は下がります。 つまり「平均年収が上がった」は、そのままでは良い知らせとは限りません。 看板にしている数字なので、自分のデータで確かめます。

結果: 大半は本当に賃上げだった。構成の変化では説明できない

対象3,608社のうち82%で平均年収が上がり、中央値は 2年で+5.7%でした。平均年齢の変化との相関はρ=+0.129と弱く、 年齢・勤続年数・従業員数の3つを合わせても、年収の変化の5%しか説明できません。 残りは、この3つでは説明がつかない部分です(測り切れていない構成の変化や、 決算期のずれのような雑音も含みます)。少なくとも 「若手が抜けたから平均が上がっただけ」では説明がつかないことは言えます。

1. 平均年齢が上がった会社ほど、年収も上がったか

平均年齢の変化で5等分し、各組の平均年収の変化を見ます。 「若手が抜けて平均が上がっただけ」なら、右に行くほど年収の伸びが大きくなるはずです。

平均年齢の変化 年齢の変化
(中央値)
平均年収の変化
(中央値)
従業員数の変化
(中央値)
上がった
会社の割合
社数
Q1-1.1歳+4.0%+4.6%71%721
Q2-0.2歳+5.6%+3.3%85%722
Q3+0.3歳+6.0%+2.8%87%721
Q4+0.8歳+6.3%+1.9%87%722
Q5+1.8歳+6.5%+0.0%83%722

たしかに右上がりですが、幅がとても狭い。 平均年齢が1.1歳下がったQ1でも年収は+4.0%、 1.8歳上がったQ5で+6.5%。 2.9歳ぶんの差に対して、年収の差は2.4ポイントしかありません。 回帰でも平均年齢が1歳上がると平均年収は+1.2%で、 この2年に起きた+5.7%の大部分を説明できる大きさではありません。

2. 人を増やした会社は、平均が下がったか

採用を増やせば給料の安い人が増えるので、平均年収は下がるはずです。 従業員数の変化で5等分しました(3,004社)。

従業員数の変化 人数の変化
(中央値)
平均年収の変化
(中央値)
年齢の変化
(中央値)
上がった
会社の割合
社数
Q1-9.3%+5.2%+0.6歳79%600
Q2-1.4%+6.2%+0.3歳86%601
Q3+2.7%+5.7%+0.1歳87%601
Q4+7.8%+6.2%+0.1歳83%601
Q5+23.1%+5.6%+0.1歳79%601

ほぼ平らです。2年で人を23%増やしたQ5でも 平均年収は+5.6%上がり、9%減らしたQ1 (+5.2%)と大きくは変わりません。 相関はρ=+0.049。採ったから平均が下がる、という関係は見えませんでした。 賃上げの幅が、採用による押し下げを上回っていたということです。

3. 業種によって伸び方は違う

業種社数 平均年収の変化
(中央値)
年齢の変化
(中央値)
電気・ガス業25+10.6%-0.1歳
建設業143+9.0%+0.0歳
非鉄金属30+8.3%+0.0歳
輸送用機器80+7.9%+0.4歳
不動産業125+7.3%+0.4歳
小売業301+4.8%+0.4歳
パルプ・紙24+4.6%+0.3歳
卸売業298+4.5%+0.1歳
医薬品75+4.4%+0.4歳
繊維製品44+4.4%-0.1歳

伸びた上位5業種と下位5業種(20社以上の業種のみ)。 電気・ガス業の+10.6%と繊維製品の+4.4%では 2倍以上の開きがあります。年齢の変化はどの業種でもほぼ0で、 業種差は構成ではなく賃金そのものの差です。業種ごとの水準は ランキングから見られます。

4. 追い風なしに上げた会社

平均年齢が下がったのに平均年収が5%以上上がった会社が420社ありました。 若返りは平均年収を押し下げる方向に働くので、この組はそれを打ち消すだけの賃上げをしたことになります。 平均年収は提出会社(多くは親会社単体)の値で、数十人の会社では1人の入退社で大きく動くため、 ここでは単体の従業員が100人以上の会社に絞って上位を挙げます。

企業業種 平均年収の変化年齢の変化 現在の平均年収従業員(単体)
川崎地質株式会社サービス業+37.9%-6.0歳824万357
株式会社船場サービス業+35.6%-1.6歳761万420
株式会社日本マイクロニクス電気機器+33.9%-1.0歳787万1,264
GMOフィナンシャルゲート株式会社情報・通信業+30.4%-3.0歳1,335万106
豊トラスティ証券株式会社証券、商品先物取引業+30.3%-1.0歳887万356
ダイダン株式会社建設業+30.0%-0.4歳1,177万2,185
株式会社タカラトミーその他製品+29.5%-2.2歳1,038万630
株式会社やまや小売業+28.8%-1.8歳551万109
西松建設株式会社建設業+27.3%-0.9歳1,062万2,706
株式会社エーアンドエーマテリアルガラス・土石製品+26.1%-4.7歳700万217
松井証券株式会社証券、商品先物取引業+26.0%-0.6歳1,155万227
明和産業株式会社卸売業+26.0%-0.5歳936万198

上げた理由まではこのデータで分かりません(賃金制度の改定、業績連動賞与、 高給の職種の比率が変わった、など複数ありえます)。各社のページで年収の推移と従業員数の推移を 並べて見られます。会社ごとの伸びの一覧は 平均年収が上がった会社・下がった会社にあります。

この検証の限界

出典: 有価証券報告書(EDINET・金融庁)。EDINET 有価証券報告書(120)。 対象は平均年収が3時点そろい、2年の変化が±60%以内の3,608社 (2023-04-30〜2026-05-20の決算)。 集計手順は pipeline/analyze_raise.py、全数値は pipeline/out/research_raise.json にあります。 ほかの検証: 社員の増減と株価女性管理職と男女の賃金差訂正報告書と経営の兆候。 算出方法の全体は算出方法へ。