社員の増減は、その後の株価と関係があるか

当サイトのタグラインを、当サイトのデータで検証した

Corpusは「社員は、決算より早い。」を投資の側のタグラインに掲げています。 人が増えている会社は業績の変化が決算に出るより早く見えているはずだ、という考え方です。 これは検証できる主張なので、実際に確かめました

結論: 関係は見つかりませんでした

従業員数の増減と、その後12か月の株価リターンのあいだに、 信頼できる関係は確認できませんでした。 一見それらしい差は出るのですが、業種の違いを取り除くと消え、 決算期のグループを分けると符号が逆になり、起点の日付を1か月ずらすと崩れます。 タグラインが否定されたわけではありませんが、支持もされていません。 無料で使える株価が2年ぶんしかなく、実質的に独立した相場局面が数本しか取れないためです。

やったこと

1. 素のリターンだけ見ると、差はある

雇用モメンタムの小さい順に5つのグループに分け、その後12か月の中央値リターンを見ます。 点線は全体の中央値+0.76%です。

+0.76%-0.14%Q1 最も減員-0.57%Q2+0.96%Q3+1.66%Q4+1.90%Q5 最も増員

増員したグループほどリターンが高い、という形にはなっています(Q1 -0.14% → Q5 +1.90%)。 順位相関はρ=+0.046(p=0.012)。ここで止めれば「効いている」と書けます。

グループ社数 従業員数の
前年比(中央値)
12か月
リターン(中央値)
全体との差
Q1(最も減員)601-5.2%-0.14%-0.90%
Q2601-1.1%-0.57%-1.33%
Q3601+1.2%+0.96%+0.20%
Q4601+4.2%+1.66%+0.90%
Q5(最も増員)601+13.8%+1.90%+1.14%

2. 業種の違いを取り除くと、消える

上の差は「増員している会社が多い業種が、たまたま強かった」だけかもしれません。 そこで同じ業種・同じ買う時点のグループの中で何位だったか(0=最下位、1=最上位)に置き換えます。 効果が本物なら0.5から離れるはずです。

0.5000.500Q1 最も減員0.466Q20.537Q30.500Q40.500Q5 最も増員

ほぼ0.5に貼りついたままで、増員側ほど上位という並びにもなりません。 順位相関はρ=+0.015(p=0.445)で、統計的にも差があるとは言えません。 つまり1で見えた差の大部分は、業種と相場局面の構成でした。

グループ社数 業種内順位
(中央値)
業種内順位
(平均)
Q1(最も減員)5510.5000.485
Q25510.4660.492
Q35520.5370.522
Q45510.5000.507
Q5(最も増員)5520.5000.494

3. 決算期ごとに分けると、符号が逆になる

同じ12か月の相場を共有するグループごとに分けて見ます。 本物の効果なら、どのグループでも同じ向きに出るはずです。

決算期社数 測った期間全体の
中央値
Q1→Q5の中央値リターン(%)相関ρ
2024-03期1,8412024-06-28 → 2025-06-30-2.10%-3.2 -3.4 -1.5 -1.6 -1.7+0.056
2024-12期4342025-03-31 → 2026-03-31+9.04%+9.3 +12.5 +16.4 +8.4 +2.9-0.054
2024-02期1522024-05-31 → 2025-05-30-0.72%-4.8 +2.4 -0.9 -3.3 +7.1+0.137
2024-09期1322024-12-30 → 2025-12-30+10.53%+13.7 +4.4 +13.4 +8.0 +16.6-0.021
2024-06期1132024-09-30 → 2025-09-30+13.41%+6.1 +6.4 +15.5 +8.5 +21.6+0.130

もっとも数の多い3月期(1,841社)ではQ5がQ3より下、 2番目に多い12月期(434社)ではもっとも増員したQ5が最下位です。 相関の符号も期によって入れ替わります。

4. 買う時点を1か月ずらすと崩れる

本物の効果なら、買う日を少し変えても残るはずです。

買う時点社数 Q1→Q5の中央値リターン(%)相関ρp値
決算期末の3か月後3,005-0.1 -0.6 +1.0 +1.7 +1.9+0.0460.012
決算期末の4か月後2,972+3.5 +3.3 +4.5 +5.4 +4.1+0.0210.260
決算期末の6か月後2,980+8.9 +12.3 +12.0 +9.9 +10.0-0.0230.203

3か月後(本編)では並びが出ますが、4か月後にすると崩れ、6か月後では符号が逆になります。 この程度で消えるものを「効果」と呼ぶことはできません。

この検証の限界

それでもタグラインを変えない理由

「社員は、決算より早い。」は、人的資本の開示が業績の変化より先に動くという見方です。 今回検証したのは、そのうち「従業員数の増減で株価が予測できるか」というもっとも単純な形にすぎません。 これが出なかったからといって、人的資本の情報に意味がないことにはなりません。 一方で、裏付けが取れていないことは事実なので、このページを残します。 株価の期間が伸びたら、また同じ検証を回して結果を更新します。

なお、Corpusは特定の銘柄の売買を推奨しません(免責事項)。 このページは投資成果を約束するものではなく、当サイトが自ら行った検証の記録です。

出典: 有価証券報告書(EDINET・金融庁)/株価はJ-Quants(JPX総研)の無料枠。 検証の手順は pipeline/backtest_employment.py、結果の全数値は pipeline/out/backtest.json にあります。 算出方法の全体は算出方法へ。